中小零細企業での丁稚奉公のススメ

私自身の経験から思うことを書いてみますが、汎用性があるかどうかは分かりませんので悪しからず。



今、将来の展望が開けないと感じていて閉塞感を覚えている若者へ。中小零細企業での丁稚奉公をしてみませんか? 理由は、



・現場を知ることが出来る

・多様な仕事を経験出来る

・お金の流れが見える



などなど。

私はバブル期の1989年にリクルートに新卒入社しました。時代が良かっただけで簡単に内定取れて、そこは本当にラッキーでした。今なら受かってないだろうな。で、人もうらやむ高い給料貰って、周りには綺麗な女性社員一杯居るし、ガラス張りの一等地のインテリジェントビルに勤務して、合コンしてディスコ行って、それはそれは楽しい毎日でした。さぞかし充実した毎日だっただろうって? いえいえ、仕事では入社直後から悩みまくりで気分は暗黒でした。「なんでこんな仕事しなくちゃいけないの?」「これ、俺じゃないといけない理由ある?」 ま、新入社員が誰しも通る道なんですが、結局三年間悩みっぱなしで解決の糸口が見えないまま会社を辞める決心をしました。随分反対されましたけどね。自分の中では正しい判断だという手応えがありました。このままこのぬるい環境に居たら、腐ってしまう。人生ダメにしちゃう、という確信があったので、環境を変えなきゃという答えは変えようがありませんでした。



で、ご縁で、新入社員時代に自分が開拓した取引先の社長さんに拾って頂いたんです。そこは、当時大阪堂島のエレベーターもない超古い雑居ビルの4F。机は四つ並べるともうぎゅうぎゅうで、社長の席まで壁際を体を横にしないと通れない狭さ。社員は、社長と奥さんと、中国人のエンジニアが男性と女性と一人ずつ。あと、若い男の子の営業マンが一人。入社初日に面白い事がありまして、やることないから営業日報でも代わりに書こうかと思って始めたら、その若い男の子に「岡野さん、私の仕事を取らないで下さい!」なんて言われちゃいまして。(笑) なんちゅー、低レベルな意識で仕事してるのかと愕然。あ、誤解を招きたくないんですが、社長は元々IT企業の最先端外資系企業でバリバリの役員候補だったエリートです。当時起業した会社が円高不況で倒産して、それでも再起を賭けてやり直してらっしゃったんですよ。



ここの会社の仕事がですね、超面白かったんですよ! 何が面白いか? これが上記の三つのポイントなんです。例を挙げましょう。その会社は、いわゆる下請けのソフトハウスで、かつ日銭を稼ぐために消耗品の商社もしていて、二足のわらじだったんですね。で、そこでまず消耗品の販売をしました。仕事は非常に簡単です。だって、どこかの代理店が納入している大型プリンター(正確にはプロッターという製図機械)のインクとかトナーとか用紙を販売するだけ。これ、実は面白いビジネスモデルで、いわゆるプリンター屋さんが本体は安く配ってインクで儲けるモデルの先駆けだったんですよ。高い機械の売り込みはどこの代理店も目を三角にして見積と営業攻勢掛けるですけど、売った後のフォローってしないし、放置でしょ? でもそこに消耗品販売という非常に地味だけど儲かる商売が隠れてるんですよ。同業には営業の猛者も少ないし、顧客も一旦購入した後の消耗品ってあまり本気で考えてないから、幾らでも契約取れました。こういう、小さいけど成功体験ってのは気分が良いんですよ。動けば動くほど成果が出ますからね。勿論ここで営業スキルが活きたのはリクルートで鍛えられたお陰です。で、大企業と中小零細で何が違うかというと、現場の経験度。だって皆さん、手形とか小切手の現物見たことあります? 大企業だとそういう仕組みしらないでしょ? 債権者会議とか出たことありますか? あの殺伐とした空気、見ておくと面白いですよ。(笑) ああ、こうやってお金って回収されてるんだ。潰れるとこんなに多くの人に迷惑が掛かるんだ。壇上で頭下げてる社長さんはこれからどうやって生活するんだろう。なんてね、小説やドラマでしか見たことない世界が、目の前でリアルに進行していくのを見れて、本当にタメになりました。

で、こうやって着実に成果を積み上げながら、本業のソフトウェア開発の知識を一から勉強しました。このコンピューターの世界が、自分の肌に合ってたんですね。OSって何? I/Oの基本は? C言語って何? 見積ってどうやって作るの? みたいな事を基礎から勉強して、日々自分の中に知識が溜まっていくのが手に取るように分かって、楽しくてしょうがありませんでした。最初の三年ほどはソフトの受託契約が殆ど取れなくて、社長にイヤミ言われたこともありましたけど、後半は随分大口の仕事も取れるようになりました。このあたりで会社の経営が順調に伸びたので、中国人エンジニアと日本人の新卒エンジニアを少しずつ採用していって、それぞれのスキルに見合った仕事を割り当てて、なるべく継続性が活きるような種類の案件を取って採算性を上げて、チーム編成と会社の進むべき方向性を模索しました。あと、外注先の選定と、その管理も。何度か質の低い外注先に引っ掛かって痛い目もしました。振り返ると、この頃経営者としての予備校に通っていたようなものですよね。これが起業した後の経験として全部活きました。



別に自慢話をしたいわけではなく、こういう経験値を積み上げる時間が絶対に大事なんだと思うんですよ。良い会社に巡り会えばそこで骨を埋めるも良し、思い切って起業するも良し。転職するにしろ、こういう人は絶対大事にされますよ。この経験はお金を払ってでもするべきなんです。それを給料貰えるんだから、給料悪いとか福利厚生が、とか寝言を言うな、と。(笑) そんな良いチャンスがない? そんな事ありませんよ。今、ハローワークで仕事を検索してみて下さい。毎日何百件も求人情報が登録されています。いきなり給料とか条件を求めるんじゃなくて、自分に合った勉強出来る環境という観点で探してみて下さい。あなたを磨いてくれる職場がきっとあります。で、次のステップに活かせば良いじゃないですか。いきなりあれこれ求めるからどこもブラックに思えるんじゃないですか? あと大事なのは、大手の庇護の下から飛び出す勇気です。リスクを取らないとリターンはありません。自分を騙して生きるには人生長いですよ?



なんて、つらつら書いてみましたけど、何かの参考になれば幸いです。20代のうちに厳しい経験をしておくのは絶対に財産になります。見る人が見ればその人の価値は分かりますからね。年取るほど守るものが増えて冒険しにくくなりますから、荷物が少ないウチが良いと思います。



最後に私が好きな言葉を添えて、一歩踏み出す若者にエールを贈ります。
人の行く裏に道あり花の山