所有かレンタルか

BMWとレクサスも車のサブスクリプションを目指す

高額な買い物の代表は住宅とクルマ。そのどちらにも所有するのか、レンタルか、という選択肢があります。住宅についてはバブル期までの右肩上がりの地価上昇サイクルが崩れ、長期のローンを組んでまで所有するのが本当にいいのかという機運が高まっていると感じます。これから少子高齢化、人口減社会を迎えるわけですから、特に若い世代には親の持ち家がほぼ確保されているわけで、先行き不透明だし当面は賃貸で間に合わせておこうという人が増えているのだと思います。当然ですね。

クルマも然り。そもそも運転免許を取らない若い人も増えているようですし、これだけカーシェアリングや自動運転や配車アプリなどの環境変化があると、クルマを買う人が減るのも当たり前です。そしてこのサブスクリプション型の販売方式。月額で定額を払えば、自由にクルマを変更できるし保険料や維持コストを含めることもできます。レンタルと所有の中間というカンジですね。

このように必ずしも皆がクルマの所有に拘らなくなるとどういうことになるか。私見ですが、今よりもクルマ全体の売上は減るでしょうね。それは殆どのクルマの稼働率が低く、大部分の時間はガレージで眠っているのが社会全体で効率化に向かうからです。そして、割合の減る所有する対象のクルマには趣味性が重視されるでしょう。つまり実用性をシェアリングに委ねて、本当に持ちたいスポーツカーや面白いクルマだけを所有するようになる。楽観的に考えれば、これから趣味のクルマのバリエーションが増えて楽しい時代になると期待できます。

私の見通しが当たってほしいですが、答えはこれからの10年で見えるでしょう。どちらにしろ、自動車が発明されて100年、激変期を迎えているのは間違いありません。

マツダはどうやって立ち直ったか


日経ビジネス誌に「マツダー変革への挑戦」という集中連載記事が掲載されていました。最近、マツダは元気ですよね。でもほんの数年前までは、経営は絶不調でした。ある程度のご年配の方は”マツダ地獄”というフレーズをご存知でしょう。マツダのクルマは下取りの人気が極端に悪く、一度マツダ車を買ったら次の買い換えもマツダディーラーで下取りしてもらうしか値が付かない、永遠にマツダ車のサイクルから逃れられないと揶揄されたのです。経営というのは、一度落ち目になるとそれを立て直すのは至難の業。今の好調マツダを実現するために経営陣がどれほどの努力を重ねたことか、そのご苦労に本当に頭が下がります。では、その復活のストーリーとはどんなものだったのでしょうか?

六回ほどの記事を私なりに要約すると、大事な骨子は以下の通りです。

1.PDCAのPにフォーカス
 これは私も反省するところが多々あるのですが、多くの企業で起きているのはいい加減なPlanの尻拭いをCheckしてActionする悪循環です。
一般的に、仕事って、あまり考えなしに始めたことで起こった問題を、現場が大奮闘して解決する、ということが多くないですか。
マツダで起きていたのは、各モデルを各担当者がおのおのでプランニングして、戦略的思考が不充分なままで開発に着手していた。出来上がってきたクルマは魅力に欠け、当然市場に出しても売れない。
誰だって、一生懸命やったことがムダになり、「やりなおし」になるのは嫌じゃないですか。私もすごく嫌だった。それをバブル期にさんざん経験して「売れないクルマを頑張って作るほど悲劇的なことはない」と思った。じゃあ、最初からムダな仕事が起きない仕組みを考えてみよう、と意識した。
マツダは10年先に自分たちがありたい姿、目指す理想を全員で話し合うところからスタートしました。そこでマツダが策定した長期目標とは何か。
マツダの全ラインアップが世界のベンチマーク、つまりは世界一を目指す。
驚きですよね。世界一を目指す、と明言したのです。しかし当然この目標設定には前提条件があります。あらゆるクルマで世界一を目指すのは、それは無理です。自分たちのモデルラインナップを決め、どのサイズの、どんなクルマで10年後に商売するのかを定めました。でないとトヨタやVWのリソースと全戦線で戦うのは無理に決まっているからです。そこでマツダはハイブリッドを捨てました。エンジンを磨くという取捨選択をしたのです。これがSkyactiveに繋がります。そしてワンボックスからの撤退。MPVは一定数売れていたにも拘わらず販売を止めて、SUVに特化したのです。そうすることで統一のマツダデザインを構築する事もできました。これはフルラインナップのトヨタ・日産・ホンダにはできない弱者ならではの戦略と言えるかもしれませんね。勝てる戦略をPlanの段階でとことん考えたからこそ生まれたのが、今私たちが見ている新生マツダの姿だったのです。

2.全社の開発環境を統合
 上記のPlanを実行するにあたり、重要だったのが社内の開発環境をデジタルで統合したことです。今まで各パートごとにバラバラに設計・開発・製造していた現場を、デジタルでデータが流れるようプラットフォームを整備しました。これがMDI(マツダデジタルイノベーション)でした。今は自動車メーカー各社同じようにデジタルプラットフォームを導入していますが、それを本格的に取り入れたのはマツダが早かった。これも規模の小さなメーカーだったからこそのフットワークの良さだったのでしょう。これは私の私見ですが、現代の仕事で最も重要なのはコミュニケーションだと思います。何故その意志決定が行われたのか、それに対してどのような修正要求が発生しているのか、誰がどうアクションしたのか。こういうプロセスを関係者全員が共有することで、自分が何をすべきなのか、自分の立ち位置と方向性が見えてきます。言われたことをただやるだけではなく、一人一人が自分の頭で考えて動くことが要求されている現代の職場では、このコミュニケーションが機能することが決定的に重要です。大事なのは実は、そのプラットフォーム上でどんな情報を流すか、なのですが。恐らく、会社の中で非公開の方がいい情報というのは、各人の給与データだけなのです。それ以外は、全部オープンでいい。私はそう思います。経営の数字を全員が共有することで、自分たちのポジションで何をすべきかが見え、やったことが成果として出ているのかどうか評価することが可能になります。仕組みを使いこなす器量が経営陣には求められます。

結果としてマツダはこの改革をやり遂げ、直近の決算で過去最高益という結果を残します。その結果を知っている私たちから見ると、ああそうか、としか感じませんが、ここに至るまでどれだけ迷い、苦しみ、考え、もがいてここに至ったか、経営陣の苦悩は相当だったと思います。どんな会社も右肩上がりでずっと調子良く発展できるわけではありません。必ず落ち込む時がきます。あまり悲観せずに、マツダのような復活事例を心の励みに、やるべきことに取り組んでいきたいと思います。大事なのは、まず志を立てるところですね。

自動車取引へのエスクローサービスの導入

3分でわかる!ECサイトでエスクローを導入する際の法的問題とは?

Wantedlyで求人広告に書いちゃってますから隠してもしょうがないんですが、いまCARZYで自動車の個人間売買サービスを準備中です。ある程度の高額車両が対象ですので、当然決済に不安が出てくるわけです。特に買い手側にとっては、ちゃんとしたクルマが届けられるのか、キャンセルした時は払い込んだお金が返ってくるのか、が気になると思います。売り手にしても、ちゃんと代金が支払われる見通しがなければ大切なクルマを送り出せない、というのが当たり前でしょう。これを解決する手段が、エスクローサービスです。

エスクローサービスとは、元々オークションなどでよく使われる、第三者による安心な取引のための第三者預託サービスです。つまり、売り手と買い手の間に善意の第三者が入ることで、代金が払い込まれていること、ちゃんとした商品(ウチの場合はクルマです)が届けられたことの確認、売り手への確実な入金、が確実に行われることが約束されます。

とても良い仕組みなのですが、実は近年フリマアプリが盛んに使われるようになるに従って、このエスクローサービスをEC事業者が提供することに法的な問題があるという指摘がされています。

急成長「メルカリ」にはどんな法的リスクがあるか ー 「預り金規制」に違反の疑い

私も最初は自社でエスクローサービスを提供しようと思っていたんですが、顧問弁護士さんに法令を指摘されて慌てました。どうも多くのC2Cサービスはここをちゃんとクリアしていないみたいですね。今回、参考例として自動車の個人間売買サービスを幾つか調べましたが、どこも資金移動業者の登録はしていない模様です。そもそもこの免許、登録しても100万円以下の取引しか扱えないという制約があります。フリマアプリを想定しているからそんな縛りになっているのでしょうが、クルマを扱うとなると上限100万円では話になりません。なのでどこも「決済代行+代理受領」スキームで逃げているんですね。しかしこのスキームは、実は買い手に多大なリスクを押し付けていることになるのです。例えば、クルマが買い手の手元に届いた時に想定していたものと違った時、当然キャンセルして取引を中止したいですよね。で、払い込んだ代金を返金してほしいという話になりますが、恐らく代理受領のスキームだと返金が難しいと思います。売り手の代わりに代金を受け取る形なので、売り手の同意なしに勝手に買い手に返金する権限がないのです。これはいざトラブルが起きてみないと気付かないポイントだと思いますが、買い手はここまで理解してサービスを利用していないでしょうから非常に不親切な仕組みと言えます。

CARZYはそこを外部のエスクローサービスを導入することで抜本的に解決します。第三者によるエスクローサービスによって安全にクルマの代金を預かり、取引が不調の場合はちゃんとキャンセル処理してご返金できるスキームです。勿論、CARZYの倒産などの不測の事態でも預り金は保全されますし、ペイオフ対象外なので全額払い戻しが担保されています。ちなみに海外では非常に手軽なエスクローサービスが幾つもありますので、ご紹介しておきましょう。

ESCROW.COM
 自動車取引を想定した説明ページが用意してあり、$25,000以上の取引で0.89%と良心的な手数料設定です。仮に5万ドルのクルマを取引すると$445の手数料。

Payoneer
 $50,000から$500,000の取引ゾーンで$525 + 0.75%の手数料設定なので、5万ドルのクルマだと$900の手数料ということになります。

残念ながら両社共にJPYが取り扱いできず、日本向けにエスクローサービスは提供していませんので使えません。しかしフィンテックを体現しているような身軽さと敷居の低さは日本企業にはないところ。アカウト登録はオンラインで完結しますし、取引登録も画面から簡単で、APIを実装してシステム連携も可能です。こういうサービスを見るといかに日本が遅れているかよく分かります。

というわけで最大の懸念だったエスクローサービスの目処がついたので、サービスの実現に大きく前進しました。まだお見せできるには時間が必要ですが、いいご報告ができるよう頑張ります。

技術の分かる経営

「ずっとむなしい、なにもなく終わる・・・」 マツダの天才エンジン技術者、大逆転の軌跡
(2018.3/10(土)の5時までは無料で読めるそうなので、ご興味のある方はどうぞ。)

はてブで沢山のコメントが付いていたので読んでみました。感じたのは、経営陣が正しい技術の目利きができるかどうかで会社の浮沈は大きく変わってくるんだなということです。幾つか印象的なコメントをご紹介。
先行開発部門や研究所には、見た目の成果をほとんど出せないままに何十年間を過ごす人がいっぱいいる。
これは辛い。モチベーションを持ち続ける自信がないです。
スカイアクティブの開発が始まったのは、2012年に始まるとてつもなく厳しい規制に対応しなけりゃならんことがきっかけです。
規制が転機になったと。外圧でイノベーションが加速されたわけですね。このあたりがクルマ業界とIT業界のスピード感の違いなんですよね。IT業界は外圧の連続で息を抜くヒマがない。これをシンドイと思うか、競争環境がリセットされるチャンスの多い業界と思うか。
私に運があるのかないのか。運のあるなしは、自分の見方次第ですから。自分より不幸な人を見てマシだと思うのか、自分より幸せな人を見て、俺は何と不幸だと思うのか。私は真ん中くらいかな。最後にモノにできて、最悪ではなくなった。会社人生の大半を最悪だと思ってましたけど。
これ、今の若い人に同じ我慢を要求するのは無理があるでしょうね。昔は我慢していても業界と会社全体が成長していたから、自分の給料もポジションも自然と上がっていった。成長しない時代に同じロジックを持ち込んでも、若手は我慢の代償が得られない。チャンスの多い環境に移って社会全体が流動性を高めた方がみんなの幸せになるんじゃないかなと思えます。
マツダには、金がないんです。でも貧乏だからこそできることが絶対にあるんです。
それが新しい考え方や技術の導入、つまり工夫ということなのでしょうね。小さい会社がリソースの少なさを嘆いていても始まりません。それは当たり前。自分達の強みを探さねば。
メーカーによって、理解の度合いがまるで違います。ぐずぐず考える前に金を使って試作機を早く造ることを自慢する会社は、モデルベース開発への理解が遅いですね。
なまじカネがあるとイノベーションが進まないと。
今のところ量産開発を担当した技術者が研究所に移ることをあまりしていないので、今後はやりたいんです。
人事交流って大事だと思います。人がコンテンツ。混ぜちゃうと化学反応が起きる。
技術研究所のテーマは、ロードマップに沿う形にしました。究極のエンジンの姿を考えて、到達する道筋をどう実現するのか最初に示すんです。ぱっと思いついたアイデアで研究しません。ロードマップに沿うテーマを考えれば、採用される可能性が上がるでしょ。
この正しいロードマップを示せるかどうかがキモだと思います。気の利いた人がいないと見通せないし、その人を重用するだけの見る目が経営陣に必要。

さて、自分達はどこまでできているのか、我が身を振り返ってしまいました…。