スポーツカーに大事なのは物語性

友人がディーラーさんの好意でIS-Fを借り出してくれたので、ちょっとだけ試乗させて頂きました。V8・5L・423psというスペックでハードウェアとしての出来映えは文句なしと思います。エクステリアは好みの問題かな。ライバルはM3・C63AMGあたりになるのでしょう。何せLexusが頑張って作った感はあります。



で、このクルマを買うかどうか。申し訳ないけど、買わないでしょう。何故か。このクルマにはストーリーがないからです。当たり前だろう、とおっしゃいますか? 確かに新しいブランドであるLexusにストーリーを求めてもしょうがないのかも知れません。でも買い手の気持ちになれば、少なくない金額を投じて、何年か乗るクルマのチョイスには真剣にならざるを得ません。フェラーリが何故あれほど尊敬されるか、アルファが今でもあれほど愛されるのは何故か、考えてみれば答えは自明です。だから、Lexusが諦めずにこのクルマを30年作り続ければ、徐々に評価されてくると思います。問題はここです。日本メーカーはすぐに諦めるんですよ。すぐに「売れませんから」。違うでしょ。売れるかどうかじゃなくて、作り手の思い入れはどこにあるのか、クルマに対する熱い思いに賛同するからユーザーはお金を払うんですよ。マーケティングとか、効率とか、株価とか、そういうの気にするから面白いクルマが生まれないんでしょう。



考えてみると、今尊敬されている自動車メーカーには、必ず熱いカーガイの存在がありました。エンツォ・フェラーリ、コーリン・チャップマン、キャロル・シェルビー、リー・アイアコッカ、ピーター・ウィーラー(TVR)などなど。日本にもGT-Rの水野さんとか、ロードスターの貴島さんとか、カーガイはちゃんといるんですよ。それが継続されていかないところに問題があります。私は日本車で一番尊敬すべきバックグラウンドがあるのはフェアレディZだと思ってるのですが、このクルマも一旦生産打ち切りの憂き目にあっています。更に今現在、売れ行きの悪さで後継モデルの開発をちゃんとしていないという話も聞いています。これでは歴史が作られて行きっこないですよ。日本企業の問題は、結局経営者の質に収斂するのだと思います。サラリーマン経営者の限界かな…?

C2 Corvette納車

週末にコルベットが手元にやってきました。1967年式のC2と呼ばれる世代の最終モデルです。アメリカでフルレストアされた個体で三年ほど横浜で展示車両として使われていたのですが、縁があって購入することに。TVR Tuscanもあるのであまり台数増やすのもどうかと随分逡巡したのですが、ご存知の通り中古車は出会いが全て。程度の良い特別なクルマにはもう二度と出会えないかも知れませんから、思い切って手に入れてみました。ウチでコルベットのパーツを販売している事もありますし、タスカンの年式は2003年式ですから比較的新しいクルマ。もっと古い旧車と過ごす体験をしてみたいと思ったのが一番の理由です。



で、実際に乗ってみての感想。素晴らしい! まず、現代車がとうに見失ってしまったデザインが良い。古すぎず、新しすぎず、適度にクラシックでエレガント。惚れ惚れします。シートに座って握ったウッドハンドルの細いこと細いこと。キーを捻ると、野太いV8サウンドが目覚めます。イマドキの躾けられたクルマではあり得ない振動が全身に伝わってきます。重いクラッチを踏み込んで1速に入れてスタート。思ったほど扱いにくいクルマではありませんが、それでも1,400kgの車重に390馬力の5,300ccエンジンの組み合わせは簡単にテールがスライドする危なっかしさ。じんわり汗をかきます。乗り心地は良いです。本来出来の良いスポーツカーって乗り心地悪くないんですよね。初期の怖さを克服して少しずつ慣れてくると、何事にも大らかで無邪気にパワーウォーズに明け暮れていたアメリカの古き良き時代の空気を感じる余裕が出てきます。ああ、豊かな時代に生まれた、豊穣なクルマなんだなという実感。徒にスピードを出さず、どこまでもゆったりと身を委ねてドライブしたい衝動に駆られます。お金で買えない、良いものを手に入れたという手応えがありますね。



今年の秋には神戸と富士でCARZY Liveを開催します。急遽、九州でも開催が決定しました。会場で皆さんとクルマの魅力を語るキッカケになると嬉しいですね。11月にはラリー・ニッポンにも出場する予定ですので、しばらくこのクルマと共に旧車の世界にどっぷり浸ってみようと思います。クルマ、万歳!