電子書籍で出版する意味

続いて電子書籍について考えてみます。

未曾有の出版不況の今日、電子出版の意味とは何でしょうか。



普通に考えて、単に紙の媒体を電子に置き換えただけでは売れ行きが伸びるはずはありません。

電子書籍は紙と違って読むために端末が必要となり、iPadとかiPhoneとかAndroidタブレットとか、何せハードウェアを購入するところからスタートする必要があります。

書店というインフラが全国津々浦々に張り巡らされ、誰もが手に取れる馴染みの深い紙というメディアで届けられる従来型出版物とは普及ベースで天地の差があります。

それでも電子出版をやる意味があるとしたら、次の二点ではないかと思います。



1.費用構造を変える事でコンテンツの質の転化を図る

 クルマ雑誌で顕著なのですが、大手クライアントが広告主として隠然たる影響力を持ってしまっている場合、そのメディアは往々にして単なる広報誌に堕してしまいます。つまり広告主の機嫌を損ねるような記事が書けなくなってしまうのです。今のクルマ雑誌の問題はまさにここで、どんなにつまらない新車でも一通りは試乗とレビュー記事を掲載せねばなりません。一定の批判は盛り込みつつも、予定調和の域を出ず、結果的に読者が読んでいても何ら感動も新しい発見ももたらさないつまらない読書体験しか提供出来なくなります。当然部数は伸びず、廃れますよね。ここを抜本的に変える可能性があるとしたら、極限まで出版に掛かる費用を削減してコスト構造を変える事です。元々の雑誌の本道であった購読料をベースにした採算構造に立ち返る事が出来れば、広告主ではなく読者を向いた記事が作れるのです。これは非常に大きなポイント。



2.ニッチなマーケット向けに採算を確保する

 上記と重なる点もありますが、同じくコストを削減する事で紙では成立しなかったニッチなマーケット向けに何とか市場を確保するチャレンジが成り立ちやすいと思います。紙では残念ながら成り立たなかったEC向けの雑誌市場ですが、デジタルでなら再興出来るのでは、と今考えているところです。書店の状況を想像すると分かるのですが、今新刊書籍の発行点数はむしろ増えており、粗製濫造の感があります。書店の店頭スペースは限られていますから、勢いベストセラーが目立つスペースを占有してニッチなコンテンツは読者の目に触れる事がそもそも難しくなっています。入れ替わりが激しく、売れても充分な補充がなされない粗い販売管理体制の元ではニッチコンテンツはますます生存が難しくなっているのですね。ところが、デジタルの強みはここでも活きてきます。必要としている読者にリーチさえ出来れば、むしろ入手は紙より容易になり、欠品が生じません。更に未来永劫バックナンバーも提供し続ける事が出来ます。これはニッチコンテンツにとって好都合な流通システムなのです。



なので、もっともっと新しいチャレンジが試されてしかるべきなのですが、出版関連企業の腰は重く動きはスローです。

この新市場に参入して活性化する役割を担うのは、むしろ従来出版に関わってこなかった全く新しい企業なのではないでしょうか。

やってみませんか、志のある方。

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