国別GDPデータの無意味さ

日本が国別GDPでドイツに抜かれて四位に転落とニュースになっています。さて、このニュースは正しく経済実態を表しているのでしょうか。

1991年にバブルが崩壊して、以後日本は「失われた30年」と呼ばれる長期停滞期を過ごしてきました。この間に何が起きたのかと言えば、強烈な円高ドル安です。

1985年のプラザ合意以降急激な円高ドル安が進み、上の長期チャートによれば1995年4月に1ドル79円70銭台の当時最高値を記録。その後少し戻りますが2011年10月末に75円55銭を付けています。バブル期以前は200〜240円/ドルだったのですから、日本の製造業は大打撃で大慌てでしたよね。自己防衛を迫られた日本企業はこぞって製造の海外移転を進めます。安価な中国の労働力を活かしてファストファッション旋風を巻き起こしたUNIQLOが典型です。当時は本当に凄い勢いでドンドン日本の工場が閉鎖されて海外に出て行きましたよね。ご年配の方ならまだあの頃の様子を覚えておられるはずです。製造設備を移すのは大変な労力とコストが掛かりますから、一旦海外に流出した製造業は簡単には国内に戻せません。この円高局面以降は国内製造比率は大きく下がり、かろうじて自動車産業だけが雇用を守る観点とその後の円安転換を見越して日本の工場を一定規模残し、輸出をしています。日本の企業活動が大きく姿を変えたのが、この円高期なのです。

これは2022年度の各国の貿易依存度なんですが、

  • アメリカ:21%
  • 中国:33.3%
  • 日本:38.6%
  • イギリス:42.5%
  • フランス:53.1%
  • イタリア:63.2%
  • ドイツ:77%
  • シンガポール:234%
  • 香港:340%

となっています。(資料:GLOBAL NOTE 出典:UNCTAD)

今回の直接の比較相手はドイツなのですが、恐らくドイツの工場立地は相当な割合がドイツ国内に残っていて、日本はかなり多くの工場が海外に流出していますから、GDPで国力を比較すること自体がナンセンスなのだと思います。輸出から海外現地生産へのシフトです。これは、UNIQLO中国工場の生産高はどこの国にカウントされていますか、という話ですよね。なので本当に国力を比べるなら、「各国資本の支配下にある全ての企業の生産高を足した額」なんじゃないでしょうか。そんな統計にお目に掛かったことはないんですが。

多分今の日本は凄く景気良いんですよね。確かにデフレで長期停滞していたかもしれませんが、その分一般国民の懐事情は悪くなかった。モノの価格が下がっても給与は下がりませんから、おカネの遣い甲斐はあったのです。私が子どもの頃、昭和40年から50年代あたりはかなりの物価高期で、狂乱物価なんて大騒ぎでした。物価が上がっても給料が上がるのはその後少し時間を置いてからですから、庶民の懐は常に厳しかったんです。それは今のアメリカでも同じだと思います。日本の物価上昇ターゲットは2%水準、つまりあまり影響が大きくない程度に少しだけ上がっていく状態が経済的には望ましい。でもそんな都合のいいコントロールができれば苦労はない。だから今の安定した日本経済の状況は、実はとても好ましい状態と言えるんじゃないでしょうか。メディアは売れればいいんです。浅い報道に振り回されて一喜一憂しないようにしましょうね。

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