AIの実ビジネスへの影響

日々AIにまつわるニュースを目にしない日はないのですが、皆さんは肌感覚でAIの影響を感じてらっしゃいますか? 私は象徴的な経験を二つほどしたので、ご紹介しておきます

サーバー機材の値上がり

いま猛烈な勢いでハイパースケーラーと呼ばれる大手IT事業者がデータセンターに設備投資をしています。それがどのくらいの規模かというと、

こちらにある通り、大手5社だけでも年間で100兆円以上の設備投資を行っています。これはただの計画値ではなく、確定した契約に基づく実績値です。彼らは永年莫大なキャッシュを内部留保してきましたが、ここにきて一気に生み出すキャッシュを全部AIへの投資に突っ込んでいるわけですね

こうなるとどうなるか。必然的に関連するリソースが逼迫します。分かりやすいのは、AIの計算を行うGPU、必要とする高性能なHBM(広帯域メモリー)、データを保存するSSD、など。生産を担う半導体企業の生産能力は限られますから、AIデータセンター向けの専用品だけでなく、我々SaaS企業が普通に使う汎用的なサーバー用の機材も逼迫します。つい最近、リースアップに伴うサーバー機材の更新用にDELL社のサーバーの見積もりを取ったのですが、従来なら50万円程度で調達出来ていた機材が、なんと定価で300万円していました…。これは誰でもDELLのウェブサイトで構成のカスタマイズを組めるので試してみていただきたいのですが、少しメモリーを増設したり、HDDをSSDに構成変更するだけで簡単に100万円単位で値段が上がっていくんですよね。HPE社なんてサーバー一台800万円とかの値付けで、笑ってしまいました

しかしこれ、笑いごとなんかではまったくなく、事業者は何らかの機材手当が必要なので、提示された金額で購入するのか、またはクラウド環境に移行するか、裏技としては現在使用中の機材を再リースかけるか、何らかの決断を下さねばなりません。どう転んでも今よりコストアップにしかならず、それで性能が向上するならともかく現状と大して代わり映えのしない機材更新でコストだけバカ上がりするのではやってやれません。これが続けば、どこかでサービスの値上げという判断をせざるを得ないのはご理解いただけると思います

プログラマー余り

実はもっとシビアな話がありまして、こちらはプログラマーの余剰問題です。つい数年前まで、IT業界は深刻な人手不足で、どこもエンジニアの確保に血眼になっている、という話はご存知でしょう。実はこれ、もう3年ほど前から状況が大きく変わっています

弊社にはグループに楽らクラウドというSES企業があるのですが、そちらでは明らかに要員(プログラマー)と案件の需給バランスが変化してしまい、今はもうプログラマーがダブついてしまっているのです。数年前には、送られてくるSESの営業メールは殆どが案件情報で、どこの会社もプログラマーを探していました。あまりに人手が足りないので、未経験者であっても先輩のプログラマーとセットであれば面倒を見る、ということがよくあったのです。それが今や、経験浅のプログラマーは言うに及ばず、しっかり実務経験のあるベテランエンジニアでも案件を見つけることが難しくなっています。ひとつの案件に要員が殺到するのでしょうね。少し前なら余裕で面談を組めていたはずのエンジニアが書類選考の段階で落とされまくり、面談までこぎ着けられません。なんとか面談できても、最終候補者のメンツがスキルフルなエンジニアばかりで、最終選考で落とされるのです。え、この人が? と驚くレベルで仕事が決まりません…。これは別にウチだけの特殊ケースではなく、どこのSES企業でも同じ状況のはずです

恐ろしいのは、これが一過性の逆風にすぎないとは思えないことです。まあそれはそうですよね。神戸の自社プロダクトチームでも、いまの最大のテーマはどうAIを賢く使いこなすか。ひとりひとりのベテランシニアエンジニアが、AIを使いまくって、仕様の策定、コード生成、レビュー、テスト、と各工程でめちゃめちゃ生産性が上がっています。もう頭数が必要なシーンは殆どなく、エンジニアとAIのタッグが当たり前です。厳しい言い方ですが、AIで置き換えられるようなレベルのエンジニアはもう要らない。AIを使いこなす側のシニアエンジニアだけで開発を回したいのです。これ、IT業界全体のエンジニア能力分布を想像すると、とても恐ろしいことですよね。数だけ見れば、手を動かすポジションのジュニアプログラマーの方が圧倒的に多いのですから

これから、SES企業がバタバタ倒産するようになると思います。新規の採用数も各社、大幅に絞るでしょうね。既存ベテランエンジニアも、スキルによってはリストラの憂き目に遭うでしょう。もちろん顧客ニーズを吸い上げて形にできる上流工程のPMや、AIを活用して実装を進めていけるシニアエンジニアは需要が増えるでしょう。一概にエンジニアだからでは括れない、ニーズの濃淡バラツキがより顕著に出ます。大変なのは、ITがトレンドだから、的なカジュアルなノリでこの業界に入ろうと思っていた若い専門学校生とかですよね。せっかく授業料を払ってカリキュラムを消化したのに、肝心の仕事がない、ということになるんじゃないでしょうか

個人的には、今までの日本のIT業界の構造が歪んでいたのであって、こういう変化は長い目ではいいことなんじゃないかと思っています。コストばかりかかって成果に乏しいITプロジェクトに辟易としていた企業は多いはずで、これからAIを使いこなせるIT人材が必要なのは、むしろユーザーの現場の近く。大手SIerに外注するのではなく、業務を分かった社内エンジニアがユーザーニーズを吸い上げてアジャイルで問題解決していく。それがあるべき未来なんじゃないかなと

10年後のIT業界

10年後といえば、2036年ですか。ひとつだけハッキリしているのは、毎年世の中に供給される計算機の資源は増え続ける、ということ。それも毎年倍というペースで。となると、2036年には2の10乗倍のコンピュータリソースを使えるわけです。過去、人類は、もうこれで満足、なんてことには一度もならず、あればあるだけのリソースを消費してきました。なので、10年後に使えるリソースは使い尽くされているはず。今はまだ限られた用途に、初歩的なデジタルデータしか投入されていない学習データが、今後はフィジカルAIによって現実のアナログ情報に拡張されると言われています。用途も、自動運転車やウェラブルデバイスに拡張されて、アナログな肉体と一体化していることでしょう。その頃にはベーシックな経済活動の殆どはコンピュータによって生み出され、我々人間は芸術や趣味といったエッセンシャルではない活動だけに勤しんでいるのかもしれません。産業革命が世の中の姿を大きく変えてしまった以上に、情報革命は社会の有り様や人の生き方そのものまで根本的に違ったものにしてしまっている可能性があります。我々の世代は、ギリギリその行く末を見届けることができるかもしれません。その未来はユートピアであってほしいものですね

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