あまり一般メディアでは騒がれていませんが、実は今米中間で最も緊張感の高まっているテーマはレアアースの輸出規制です

今や世界のレアアース産出の殆どを中国が占めるに至っていますが、これによる影響の大きさをアメリカも過小評価していました。仮にレアアースの輸出が止まるとどうなるか?
さて、ほとんどの人が一生意識することすらないこの地味な元素たちが、なぜ米中の覇権争いで「経済核爆弾」とまで呼ばれるのでしょうか? それは、これらの元素がなければ、現代文明を支えるほぼ全てのハイテク電子機器が製造不可能になるからです。レアアースは「産業のビタミン」と呼ばれています。ほんの少し加えるだけで、素材の性能が魔法のように劇的に向上します。
・最強の磁石 :EV、スマホ、兵器の心臓部
・鮮明な光と色:iPhone、有機ELテレビ
・究極の研磨剤:半導体製造の生命線(週刊金融日記より)
つまり、特に性能を求めなければ量産品は作れても、ハイエンドの製品はレアアースがなければ期待される性能が発揮できず、話にならない。これは軍事的に壊滅的な影響を及ぼしますし、民生品分野においても最先端のiPhoneなどが作れなければ西側経済は大混乱です。現代社会においてこれほど深刻なボトルネックがあったのか、という感じです
どうしてことほどさようにレアアースの産出を中国に依存するようになってしまったのか? これはその生産プロセスが非現代的だからに他なりません
レアアースの採掘・精錬には以下のような極めて汚染リスクの高い工程があります:
- 強酸を使った溶出処理:硫酸・塩酸などで鉱石からレアアースを溶かす
- 溶媒抽出・沈殿分離:数百回にわたる化学分離を行い、膨大な廃液が発生
- 副産物の放射性元素(トリウム・ウラン)処理
→ これが最も厄介で、欧米では安全基準を満たす処理コストが極めて高い結果として、環境汚染・健康被害・廃棄物処理の問題を伴うため、多くの先進国では事実上の「産業忌避」になりました。
レアアースとは、存在自体がレアなのではなく、それなりに広い範囲で産出自体はあります。問題はその含有濃度が非常に薄いことにあります。鉱石を掘り出した後に、数百回も硝酸や塩酸で分離作業を繰り返し、挙げ句の果ては副産物として放射性廃棄物が発生してしまいます。そりゃ西側先進国の労働者は誰だってそんな作業に従事なんかしないわけです。現場は見ていませんが、恐らく中国のレアアース生産工場はもの凄い非人道的な劣悪環境なんじゃないでしょうか。しかもその希少な産出物を法外な値段では売っていない。こんなダーティで誰もやりたがらないビジネスで儲けも大したことなければ、そりゃやってくれる中国さんにお任せ、となりますわね。遅ればせながらオーストラリアのLynas社が国産化に取り組んでいるらしいですが、これは日本とアメリカが国策としてバックアップしているからできることで、もはや民間ビジネスの枠を離れています

どうやらアメリカと中国でレアアースの輸出規制に関して何らかの合意は得られた模様なので、いきなり産業に大打撃とはならないみたいですね。やれやれ。我々の現代の生活がいかにデリケートな構造の上に乗っかっているのか、改めて恐ろしいと思いました

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