農業の大変さ

私は三重県の一志郡一志町という田舎の農家に長男として生まれました。親父は平日は日本鋼管の津造船所で働きながら、週末だけ祖先から受け継いだ田畑を細々と営む典型的な兼業農家でした。親父は常に働いていて、家でゴロゴロしている姿なんて見たことがありませんでした。文字通り、正月だけしか自分の休みなんてなかったと思います。その親父が、私が大学に進学するタイミングでリストラに遭ってしまいました。いわゆる円高による造船不況の波をモロに被ったのです。そして実は、それが親父に降りてきた幸運だったのです

リストラされた親父は職安に通い、持っていた溶接の技術を活かせる仕事を紹介されました。それから始めたのがシャッターの取り付け設置の自営業。これが結構な収入になったのです。人生、何が良くて何が悪いかわかりませんね。結果的にリストラ様々で、そこから金銭的に余裕ができた親父は、段々と農作業の規模を拡大していきます

最初は近所の農家数軒で共同で農業機械を買うことから始めました。トラクターやコンバインは高額なので年に数日しか使わない零細農家が大型機械には手が出せないのですが、仲間内でおカネを出し合うことで次々と高額な機材を買い込んでいきます。私が手伝っていたのは大学生までですが、隣の田んぼに後から来た人が自分より先に作業を終えて帰る姿を恨めしそうに見ていましたから、一番大きな機械を購入してさぞ親父は溜飲が下がる思いだったでしょうw

最終的には農業生産法人を設立し、何人かのスタッフを雇い、見渡す限り全部の地域の田畑を請負で耕作する規模になります。90haといえば、想像が付くでしょうか。日本の平均耕作面積は一町、つまり1haですから、90軒分。北海道並みの耕作面積になります。

その親父も三年前に亡くなり、岡野農産は従兄弟が継いでくれています。株式は私が相続しましたので、一応私がオーナーになります

社長の野尻君とよく話すのですが、本当に農業は大変。確かに国から補助金はもらっているのですが、それにしても重労働。現場を知らない方には理解されないのですが、実は農業は結構時間との勝負なのです。つまり田植えにしろ稲刈りにしろ、タイムリミットがあるんです。田植えの苗代は一度に作りますから、まごまごしていると苗が育ちすぎて機械植えできなくなります。稲刈りはもっとシビアで、育ちすぎると乾燥してひび割れたりして等級が下がるし、台風が来て稲が水に浸かるとそもそも商品としてダメになってしまう。作業に適した期間は限られるので、その間に大量の処理を済ませねばならず、農繁期は朝の4時から夕方暗くなるまでずっと機械に乗りっぱなし。農業機械って振動が凄いから、めっちゃ疲れるんですよ。中学生時代にトラクターに一日乗ったら熱出して寝込んだことがあります

そして、目立たないんですが大変なのが、草刈り。これが実は隠れた重労働で、野尻君は「下手したら農作業の半分くらいは草刈りかもしれん」と言ってました。この過酷な夏場に、遮るものの無い田んぼで一時間でも草刈りしてみれば、それがどんなに重労働かわかるでしょう

だから、農薬を一切使わない有機農法なんて、小規模だから成立するだけの話で、一般的な現場では全くもって不可能なんです。本気で有機農法でやれば、農民が潰れてしまいます…。だから私は軽々しく有機農法を持ち上げる風潮にまったく共感できないし、腹立たしく思ってしまいます。もちろん過剰な農薬使用をさけたいのは私も同じ気持ちですが、最低限の減農薬農法しか現実的ではないのです。

大量生産が可能な米にしてこの有り様ですから、もっと手が掛かる野菜や果物類はもっと大変です。恐らく機械化なんて夢のまた夢。いつまでたっても人手が必要な労働集約産業なので、コストが掛かるのは当然なんです。

だからね、みなさん。少々の値上がりは許容してください。手を動かして作っている一次産業従事者は地獄の思いをして皆さんにお届けしてるんです。スーパーで品物を手に取るとき、作っている人の顔を少しだけ思い浮かべていただきたい。農家とこの国の国土を守るために、応援していただきたいなと思います

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

コメント

コメントする

目次