クラウドコンピューティングの幻想から目覚めよ単純ではない企業ITの実情(1/4 ページ)

クラウドコンピューティングがあたかも時代の救世主であるように論じられている。過熱ぶりを見ながら、真っ先にわたしが思い出したのはNGNだ。3月19日に著書『クラウドコンピューティングの幻想』(技術評論社)を発売するエリック松永氏に話してもらう。

» 2009年03月13日 08時00分 公開
[エリック松永,ITmedia]

 ITアナリスト、ITベンダー、ブロガーなどさまざまなタイプの人々により書籍、講演やさまざまなメディア上でクラウドコンピューティングがあたかも時代の救世主であるように、毎日どこかで論じられている。クラウドコンピューティングの過熱ぶりを見ながら、真っ先にわたしが思い出したのはNGNだ。

バズワードの罪

 わたしは以前「NGNは情報通信革命のジャンヌダルクではない」という記事の中で、まずはNGNというバズワードの本質的な意味を理解することの重要性を書いた。提供者側の理論で語られるバズワードを鵜呑みにしていては、利用者側はそのバズワードの本質も価値も分からず、最終的にはどう利用するかも分からない。そして利用者は離れていく。その意味で、NGNは予想通りまさにその通りの道を歩んだ。

 わたしは、表面的なバズワード、例えばNGN、ICT、SOA、SaaSに大きな疑問を感じてきた。SaaSに至っては、PaaS、RaaS、DaaS、CaaSまで拡張している。クラウドコンピューティングに関する議論も同じだ。本当にクラウドコンピューティングを知りたい、知るべき人にとって本質的なクラウドコンピューティングの意味を理解するような議論がなされていない。議論の起点がバズワードだからだ。ビジネスの現場でコンサルタントとしてクライアントと話していると、現場ではこんな質問が飛んでくる。

 「クラウドコンピューティングって、どうなんですかね?」

 これだけ、情報が溢れているにもかかわらず、どうなんですかねという疑問を繰り返させてしまっている現状。だからわたしは米Oracleのラリー・エリソンCEOが「クラウドコンピューティングなんて皆が流行に乗ろうとしているだけの話だ。まるでチンプンカンプンだ。わたしがバカなのか、皆が何を言っているのかさっぱり分からない。こんな馬鹿げた状態が一体いつまで続くのだ」

 と言った時も、わたしは驚きはしなかった。わたしもずっとそう思ってきたからだ。

何が幻想を引き起こすのか

 クラウドコンピューティングを語る時、キャッチーな言葉の中によっていくつかの不幸な幻想が引き起こされている。ここでは例として3つの幻想を挙げると、

  •  クラウドコンピューティングによって企業システムのパラダイムシフトが起きる幻想
  •  クラウドコンピューティングが斬新なサービスを生み出す幻想
  •  クラウドコンピューティングの技術が凄い幻想

 クラウドコンピューティングが新しいサービスを次々と生み出す夢の箱のように語られるのは、クラウドコンピューティングの成功企業であるGoogleやAmazonの存在が大きい。例として、まずはGoogleに関してきちんと理解できているのかが出発点にしてみる。ここできちんと押さえなければいけないのは次の点だ。

  •  Googleはコンシューマー向けのビジネスで成功している企業である
  •  Googleのサービスはクラウドコンピューティングだから生まれたのではなく、サービスを実現するためにクラウドコンピューティングという仕組みが生み出された
  •  Googleはスタンフォード大学のキャンパスから生まれた若いインターネット時代の企業であること

企業向けクラウドについて

 まず、Googleのサービスは企業向けに作り込まれたものでもなければ、企業ニーズを網羅したシステムでもない。またGoogle自身、今の企業がもつ過去の資産や古いカルチャー、事業部の障壁などの企業システムにまつわる問題点に対しての答えを持っているわけでもない。企業は、大きなシステムを持っているが故のさまざまな課題を抱えており、単純に所有から利用という理想に乗っかれるほど単純ではない。

 おそらく現場や情報システムに深く関わった人なら誰もが、クラウドコンピューティングの議論でしっくりこないものを感じるはずだ。原因はこの出発点の食い違いだろう。Googleが消費者向けのサービスで成功したからといって、そのまま企業向けのシステム展開できると考えるのは飛躍し過ぎている。

 クラウドコンピューティングは、企業システムのフルアウトソーシングのさらなる発展系とも考えられる。つまり、アウトソーシングというキーワードについてまずは考えるべきであり、クラウドの議論は本論を避けているようにしか思えない。企業向けクラウドコンピューティングは日本でアウトソーシングがなかなか浸透しないように、そんな単純な話ではないのだ。

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