弱みを見せあえる組織の作り方:「悪い兆し」早く共有できる仕組みでトラブル激減

ミーティングのイメージ画像

「弱みを見せあう」ことで現場からの悪い情報なるべく早く上にあげられる(写真はイメージです)。

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ロバートキーガンさんの『なぜ弱みを見せあえる組織が強いのか』、400Pを超える本ですが、読まれた方も多いのではないでしょうか。私が先日ジョインした株式会社FIXERでもマネジャーの課題図書にしています。

私は前職のリクルート時代を含めて10年以上 組織内で弱みを見せあえるオリジナルの仕組みを使ってマネジメントしています。リクルート時代のスーモカウンター、リクルートテクノロジーズ、リクルートワークス研究所そして現在のFIXERの4組織で使っているのですが、どこでも効果があるのです。今回は、その仕組みを紹介します。

経営は1秒でも早く悪い情報を知りたいと思っている

最初に、この仕組みを作った目的は、弱みを見せあうことではありませんでした。やり始めると、「弱みを見せあう」仕組みになったというのが正直なところです。当初の目的は、「現場から悪い情報を1秒でも早く上げてほしい」というものでした。

エグゼクティブの椅子

経営側は現場にいるからこそ分かる「嫌なにおい」「変な感じ」「違和感」を知りたがっている。

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大半の人は、悪い情報を上司や上部組織に報告するのを躊躇しがちです。悪い情報を報告すると叱責されると思うのでしょう。あるいは、悪い状態を作った自分の能力不足を隠したいと思うのかもしれません。(これなどは、まさにキーガンさんが著書で話されている内容ですね)私もかつてはそうでした。

実際、報告しなくても、現場で問題を解決できるケースも多いのですが、中には、問題をこじらせてしまうケースがあります。

例えば、顧客からのクレームがあった場合に、それを自分たちだけで解決しようとするのですが、対応を間違い、大クレームになってから報告が上がってきます。このようなケースでは、残された時間が限られています。結果として、多くのパワー(経営陣が総動員で対応)やコスト(キャンセルやサービス)がかかってしまうことが常でした。

これを避けるための仕組みを試行錯誤し、たどり着いたのがこの仕組みなのです。

そして、この仕組みを導入してから、悪い情報が経営に上がってくるようになったのです。とても助かりました。そして副産物として、「弱みを見せあえる組織」になっていったのです。

3つの情報を定期的に集めるだけ

具体的に何をしているのかをシェアします。とても簡単です。拍子抜けするくらい簡単です。定期的に3つの情報を現場から入手します。それだけです。

経営会議であれば各事業部から、事業部の部長会議であれば各部から、部の課長会議であれば各課から、課の会議であれば各メンバーから3つの情報を報告してもらいます。3つの情報とは、

  • 悪い兆し
  • 良い兆し
  • トピックス

です。これだけです。これを定期的に収集する仕組みを作ると、悪い情報が現場から上がってくるようになります。そして、自然と、弱みを見せあえる組織になり始めるのです。

ただし、上手く運用するには、3つの留意点があります。

1つは、情報取得の並び順です。通常であれば「良い」→「悪い」と並べるかもしれません。しかし、「悪い」→「良い」の順番です。経営にとって耳が痛い「悪い」情報を一番に知りたいというメッセージになるからです。

この順番を変えると、悪い情報が上がりにくくなります。ちなみに、ここに書かれる内容が、「弱み」と重なります。

上司と部下のイメージ図

弱みを見せあえる組織では、問題が現実になる前の「兆し」の段階で共有できる。

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2つめは、「兆し」という表現です。悪い「ポイント」、良い「ポイント」ではなく、悪い「兆し」、良い「兆し」という表現にしています。これは、現場へのリスペクトを表現しています。経営は、現場にいるからこそ分かる「嫌なにおい」「変な感じ」「違和感」を知りたいのです。これを「ポイント」という表現にすると、「兆し」から「現実」になってからの事実情報しか上がってこなくなります。繰り返しになりますが、経営は一秒でも早く悪い情報が必要なのです。ポイントでは、上がってくるのが遅くなるのです。

3つめは、悪い兆しを報告してくれたことに感謝することです。最初は難しいかもしれません。「そんなことくらい現場でやっておけよ」と言いたくなる気持ちをぐっと抑えて、「ありがとう」と伝えなければいけません。悪い兆し=弱みは、簡単に出てこなくなります。

ちなみに最後の「トピックス」は、何を書いても良いスペースです。特に現場の最小単位の組織、例えば課などでは、定期的にメンバーとコミュニケーションしてほしいという思いで作りました。ですので、トピックスは、各メンバーのトピックスを書くパートになります。

3つの情報が抜群の効果を生み出す

「悪い兆し」を現場から把握できると、大きなトラブルが激減していきます。それは上位者が「兆し」段階で、これは大きなトラブルになるのか?それともならないのか?判断できるからです。大きなトラブルになる可能性が高いと判断した場合は、組織を超えて、対策が検討できます。

副産物として効果は、組織状態が判別できることです。3つの情報の有無や内容を見ていくと、組織情報が手に取るように分かってきます。

チェックするポイントは3つです。

  1. そもそもの情報量の多寡です。経験的に情報量の多い組織は、問題が起きていないケースが大半です。逆にトピックスに空欄が目立つ組織は、問題、特にコミュニケーションの問題が起きているケースがあります。逆に表面的な内容しか書かれていない組織も問題があることが多いです。
  2. トピックスにプライベートの内容が出ているかどうかです。プライベートの内容が書かれている組織は、かなり状態が良いことが多いです。
  3. そもそも「悪い兆し」の情報が書かれているかどうかです。メンバーの立場で悪い兆しを書くというのは、自分の弱みを見せるのと同意語です。

必ずしも毎回、悪い情報が書かれている必要はありません。実際に悪い兆しが起きてないこともあるからです。しかし、これが全く書かれない組織があります。ここは要注意です。兆しという変化に対して鈍感なのか?組織長が悪い兆しを上げるのを止めているかです。どちらにしても、問題が起きている可能性が高いのです。

導入時の現場の典型的な反応

「悪い兆し」「良い兆し」「トピックス」を定期的に把握しましょう!と提案すると、現場から4つの反応があります。

  1. 喜んで:うまくいっている方法であれば、やってみよう!とすぐにスタート。
  2. 様子見:周囲の動向を見ながら判断。
  3. 導入を渋る:悪い兆しなど書くわけない!とスタートしない。
  4. 勝手に変更:スタートする前に、フォーマットを変更する。

今回FIXERに導入した際も同様の傾向でした。今回は1つの組織がイニシアティブをとってくれて、うまく展開できました。その組織は、このフォーマットはそのままに、共有する場をカフェにしました。いつもと違う場所で、いつもと違う内容をシェアするという演出をしたわけです。加えて、このフォーマットをネーミングしてくれました。「弱みを見せあうカフェ」ということで略してYMCという名前です。このような固有名詞ができると、組織への浸透が促進されます。

弱みを見せあうカフェで用いられる記入シート

他の組織にも一気に展開できました。YMCとネーミングしてくれた組織のおかげで、様子見していた組織もスタート。導入を渋っていた組織も、少数派になった瞬間にスタート。フォーマットを勝手に変更した組織も、周りが「ワイエムシー」と言っている声に引っ張られて、自然とYMCフォーマットに戻していました。

導入した初期段階の成果

いち早くYMC(弱みを見せあうカフェ)を導入した組織のリーダーからは、新しいメンバーとの人間関係の構築に役立ちましたと報告を受けました。

一番大組織のリーダーからは、「こんな簡単なことで組織のコンディションが把握できるとは驚きです」と報告を受けています。

私自身は、各部門の状況が類推できるようになり、とても助かっています。

5月末から全社の経営会議にも導入する予定で、これにより経営陣が全社の問題点を把握し、重要なトラブルの兆しに対して、手を打つことができるはずです。

本当に簡単で、効果が大きい施策です。ぜひ、みなさんの組織でもYMC(弱みを見せあうカフェ)を導入し、強い組織になるきっかけにしてみてください。


中尾隆一郎:株式会社FIXER執行役員副社長。大阪大学大学院工学研究科修了。リクルート入社。リクルート住まいカンパニー執行役員(事業開発担当)、リクルートテクノロジーズ社長、リクルートワークス研究所副所長などを経て、現職。株式会社「旅工房」社外取締役も兼任。

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